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第45話 寛子

Author: G3M
last update Last Updated: 2025-12-19 20:32:12

 ローレル社の涼子から美登里に電話がかかってきた。

「そちらの首尾はどう?」と涼子。

「うまくいったわ。第二アルゴー社は範経のものよ。そちらはどう?」と美登里。

「それが、寛子叔母さんが取り乱してしまって大変なの。範経と一緒に来てくれないかしら」と涼子。

「またなの? わかった、すぐ行くわ」と美登里。

 美登里と範経がローレル社に着いた。

「叔母さん、美登里と範経が来てくれたわ」と涼子。

「範経? 本当に範経がいるの?」と寛子。

「お母さん、どうしたの?」と範経。

「範経! 来てくれたのね!」と寛子。

「どうしたの? お母さん」と範経。

「わたし、どうしていいかわからないの!」と寛子。

「もう大丈夫だよ。ぼくがいるから」と範経。

「ごめんなさい、もうだめなの……」と寛子。

「もう大丈夫だから。ぼくが面倒を見るから」と範経。

「会社がもうだめなの……」と寛子。

「会社も大丈夫だよ」と範経。

「もうどうにもならないのよ……」と寛子。

「今、電脳が動いてるだろ」と範経。

「本当?」と寛子。

「本当よ。昨日、範経が直してくれたの。応急処置だけど」と涼子。

「範経がやってくれたの?」と寛子。

「そうよ。叔母さん、もう心配しなくてもいいのよ」と涼子。

「お母さん、だから落ち着いて」と美登里。

「範経、範経ここにきて……」と寛子。

「ここにいるよ」と範経。

「ここに居てくれるの? 私といてくれるの?」と寛子。

「ああ、いるよ」と範経。

「許してくれる? 私のこと」と寛子。

「お母さんは何も悪いことをしてないよ」と範経。

「そんなことないわ。私は悪い母親だったもの。あなたにつらい思いをさせたもの。あなたに寂しい思いをさせたもの! ごめんなさい! ごめんなさい……。許して、私のことを嫌いにならないで……」と寛子。

「お母さんのこと、嫌いなわけないよ。大好きだよ」と範経。

「本当に?」と寛子。

「本当だよ」と範経。

「それなら私の横に座って」と寛子。

「さっきから横にいるよ」と範経。

「もっと近くにきて!」と寛子。

「こう?」と範経。

「あなたのために何でもするから。だから私の側から離れないで。お願い……」と寛子。

「わかったよ。そばにいるから、落ち着いてよ、お母さん」と範経。

「範経がいてくれたら、落ち着くわ」と寛子。

「一体、何があったの?」と範経。

「もう、会社にお金がないの。
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